新聞社がおびえるインターネット
佐々木氏のエントリー「毎日新聞社内で何が起きているのか(上)」の中で、毎日新聞はもとより、他紙の全国紙の記者がインターネットをおびえている様子が描かれている。
「毎日の低俗記事事件をきちんと報道すべきという声は部内でも多かったし、僕もこの問題はメディアとして重要な事件だと認識している。でもこの問題を真正面から取り上げ、それによって新聞社に対するネットの攻撃のパワーが大きいことを明確にしてしまうと、今度は自分たちのところに刃が向かってくるのではないかという恐怖感がある。だから報道したいけれども、腰が引けちゃってるんです」
この事件のマスメディアでの報道が少なく、扱いも小さいのは、「同じマスコミ仲間を守ろう」というような身びいきからではない。この記者も言うように、不安におびえているだけなのだ。(毎日新聞社内で何が起きているのか(上))
一方、毎日新聞も毎日新聞で、
「ネットで毎日を攻撃しているのはネットイナゴたちだ」「あの連中を黙らせるには、無視するしかない」
(中略)
「あんな抗議はしょせんは少数の人間がやっていることだ」「気持ちの悪い少数の人間だ」(毎日新聞社内で何が起きているのか(上))
などと、インターネットを矮小化することで自分たちの恐怖を紛らせようとしている。その原因は、
「自分が時代の最先端を走っていると信じていて、自分が理解できないものはいっさい受け入れない」という全共闘世代の典型的な特徴(毎日新聞社内で何が起きているのか(上))
だという。このことは何を意味することだろうか。
ぼくは、この毎日新聞の姿勢が「2007年とは何だったか。そして2008年はどこへ向かうのか。」で引用したアルビン・トフラーが「富の未来」(講談社)で語った「ノスタルジア軍団」に重なって見えてしょうがない。もう一度、ここに再録しよう。
新しい文明が古い文明を侵食する時期には、二つをくらべる動きが起こるのは避けがたい。過去の文明で有利な立場にあった人や、うまく順応してきた人がノスタルジア軍団を作り、過去を賞賛するか美化し、まだ十分に理解できない将来、不完全な将来との違いをいいたてる。
見慣れた社会の消滅で打撃を受け、変化のあまりの速さに未来の衝撃を受けて、何百万、何千万の欧米人が工業経済の名残が消えていくのを嘆いている。
職の不安に脅え、アジアの勃興に脅えているうえ、とくに若者は映画、テレビ、ゲーム、インターネットで暗黒の未来のイメージにたえず接している。メディアが作り上げ、若者の憧れの的とされている「スター」は、街角のチンピラや傍若無人な歌手、禁止薬物を使うスポーツ選手などだ。宗教家からはこの世の終わりが近いと聞かされている。そしてかつては進歩的だった環境運動がいまでは大勢力になり、破局の予言をふりまいて、「ノーといおう」と繰り返し呼びかけている。 (アルビン・トフラー著「富の未来」講談社)
ぼくは、「デジタル化は避けられなかったのか」でも、テレビ産業やデジタル批判派も「ノスタルジア軍団」だと指摘した。そして、今回の「WaiWai」騒動で、はからずも毎日新聞や他の全国紙が「ノスタルジア軍団」だと露呈した。
もちろん、ネットの広告費が新聞を追い越しかねないという点もあろう。しかし、一番、大きいのは今まで新聞記者として振るっていた取材権などの既得権が奪われることを恐れているのだ。佐々木氏の「毎日新聞社内で何が起きているのか(上)」でも、
第二に、取材に対する対応があまりにも酷かったこと。たとえばこの問題をメディアとして最初に報じたJ-castニュースに対する木で鼻をくくったような対応や、PJニュースの市民記者に対する信じられない対応ぶりを見れば明らかだ。(毎日新聞社内で何が起きているのか(上))
というように、ネットメディアのニュースサイトに対する対応からも、十分に窺われることである。
ぼくは、「消費者から生産消費者へ」でトフラーの語る生産消費者の概念を書いた。
トフラーは生産消費者をプロシューマーと呼んでいる。(prosumer=producer(生産者)+consumer(消費者))。これからは単なる生産者ではなくて生産消費者がメインとなってくるというのだ。(消費者から生産消費者へ)
それを具体的にあらわしたのは、ロングテールの理論を提唱したクリス・アンダーソン氏の次の言葉である。
--大ヒット作がかげりを見せていること、そしてテールの先っぽの方のニッチな作品がある程度の収益を上げ始めていることは、喜んでよいことなのでしょうか。
ええ、喜ぶべきことだと思います。ヒット作品がなくなることはありません。これからもずっと存在し続けるでしょう。ただ、レコード会社と契約しないプロデューサーや音楽バンドが生み出す草の根的な現象や、YouTubeに作品をアップロードしているような、従来のテレビネットワークでは決して日の目を見ることのなかった人たちと競争しなければならなくなったということです。
われわれが生きているこの時代の文化では、驚くような作品、大きな反響を呼ぶ作品が、まったく期待していなかったところから生まれることがあります。Arctic Monkeysのように、レコード会社との契約や取引もなく売れる音楽バンドが増えています。また、レコード会社と契約しない道を選択するトップアーティストも増えています。RadioheadのThom Yorkeもその方向を考えています。Beckもまた然りです。これは、より広い範囲から作品を選べるだけでなく、より多くの人たちが作品を制作できるようになることで、われわれの文化がより豊かなものになっていくことを示しています。(中略)
--ロングテールを実現している最も重要な人たちは誰ですか。
制作者です。ロングテールというのは、コンテンツを作成し、その利用者を探している、何百万何千万という人たちで構成されています。ネット上のブロガたちを見てください。彼らは、マスメディアのテール部分を百万倍にも拡張しています。彼らには言いたいことがあり、ブログはいとも簡単に作成できるからです。
ですから、「ロングテール」がもたらした本当の教訓とは、プロが作成してアマチュアが消費するという従来の図式が崩れて両者の境界があいまいになり、アマチュアもプロと同じくらい制作に貢献できるということ、何より、アマチュアの数は圧倒的に多いということをわれわれが認識するようになったという点にあるのではないかと思います。
(「ロングテール理論」の提唱者クリス・アンダーソン氏に聞く)
新聞社やテレビ局の嘆きもよくわかる。かつて新聞社やテレビ局に入らなければなれなかった、テレビクリエイターやジャーナリストが全く違った分野から生まれてくるということなのだから。
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