最終更新時刻:2008年9月8日(月) 11時00分

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パラレルワールドとしての電脳コイル

公開日時:
2008/05/19 11:37
著者:

 「物理空間の統治者は電脳空間の統治者であるべきか」という前回のエントリーは、去年冬のコミケのために境さんや山口さんと一緒に書いた本の原稿で、電脳コイルを二次創作したものだ。京都の町の中で、巨大な拡張現実博物エリアをwikipediaのようなオープンコンテンツコミュニティとして展開しているKazへのインタビューの形をとっている。
 このような勝手AR空間をつくる活動が政府の政策により排除されようとしているという設定で、それにどう対抗しようとしているか、そもそも複数の拡張現実が許容されたりされなかったりする理論背景にはどのようなものがあるのかが、インタビューを通して紹介されている。
 アニメの電脳コイルでは、このインタビューでおきているような勝手チャンネルという設定はなく、「子供の電脳めがねをかけている世界」と「大人の電脳めがねをかけていない世界」の2つしか存在しない。磯監督にも確認したが、ただでさえ複雑な世界設定を過度に複雑にしないためにあえてとられたもので、複数の拡張現実という設定は企画構想中には考えていたようだ。
 スノウ・クラッシュの仮想世界が「この現実とは別の仮想世界をつくること」であることに対し、電脳コイルの仮想世界は「いまここにある現実に仮想世界を重ね合わせつくること」である。言い換えれば、スノウ・クラッシュのようなメタバースは異界の、電脳めがねはパラレルワールド(平行世界)のメタファーによって語られるべきものではないだろうか。
 宮台真司は、去年夏にGLOCOMで行われた講演の中で、メタバースの発想は新大陸発見であり、キリスト教的な創世の概念に由来していると指摘した。それとの対比で主張するならば、電脳めがねが実現するパラレルワールドは、八百万の神やおばけが跋扈する多神教的な世界である。山口浩はこれを電脳トトロと評した。
 そもそもパラレルワールドとは、どういった概念なのだろうか。非常に簡単に説明するならば、「いまわれわれが認識している世界とほとんど同じだが微妙に違う世界が平行して存在している」というものである。既存のパラレルワールドの発想には、環境型パラレルワールドと身体型パラレルワールドの大きく2つのカテゴリーがある。
 環境型パラレルワールドは、物理世界そのものや環境自体がパラレルに存在するという考え方であり、量子力学の多世界解釈や、反物質でのみ構成される鏡像的世界、タイムパラドックスによる世界の分岐など、物理的な理論に基づくものが多い。
 身体型パラレルワールドは、たとえ環境が単一であったとしても、身体の来歴の多様性によって、主体によって異なった認知をすることによる。そもそもわれわれが同じ赤を見ているとはいかなることなのかを問うクオリア問題や、ネーゲルの「コウモリであるとはどのようなことか」が代表的な論である。また、「あの人霊感が強いよね」というシックスセンス的な話や、統合失調症でよくおきる幻視・幻聴もこのたぐいである。
 電脳めがねが生み出すパラレルワールドは、この2つに加え、インターフェース型パラレルワールドともいうべき新しいカテゴリーを生み出しているように思える。インターフェース型パラレルワールドはこの物理世界に身体との間で、新しいミドルウェアの領域を提供する。
 たとえばある部屋に10人の人がいたとして、その10人が同じ共通の世界をみているかというと、そうではない。ある3人は魑魅魍魎がうごめいている世界をみていて、別の4人はアニメキャラが見えていて、残りの3人はその両方が見えているといったことがありうる。この10人が互いにコミュニケーションをとろうとしたときに、どのような問題がでてくるかは容易に想像できるだろう。インターフェース型パラレルワールドでは、コミュニケーションの不可能性が原理的な問題というよりは、現実的な問題に転化する。
 インターフェース型パラレルワールドによっておきるコミュニケーションの不可能性が、ある種の社会問題を引き起こすことは想像に難くない。縦割り行政によってサッチーが神社に入れないという電脳コイルのシーンや交通事故の発生はその典型的な例だ。土地の所有権者が、パラレルワールドのパラレル性を制御したいという欲望をもつことは成り行き上必然で、インタビューでは、政府がそうした規制に乗り出すという設定を考えた。
 インタビューに登場する「電脳空間妄想同一説」と「電脳空間物理従属説」は、身体型と環境型の狭間に位置するインターフェイス型パラレルワールドが、社会制度上一体どちらに振り子を揺らすのかという論点につながる。
 電脳めがねの登場は、われわれの妄想の自由度をあげるために使われるのみならず、レッシグのいうところのアーキテクチャーによって、妄想の自由が脅かされる可能性すらある。

 そういった話をGLOCOMで3月24日に行った第一回研究会ではお話したわけだが、5月20日(火)に行われる第二回のテーマは技術である。攻殻機動隊の光学迷彩を実現したことで有名な慶応大学の稲見さんや電通大の長谷川さんというAR界の研究者お呼びして、電脳コイルの実現可能性について会場を交えて議論をしていく予定だ。興味のある方は、ぜひ会場まで足を運んで欲しい。

http://www.glocom.ac.jp/2008/05/_ar.html

「AR時代の技術(シリーズ「オーグメンテッド・リアリティ(AR)時代の世界」第2回)

May 2, 2008 [ seminar ]

* 「AR時代の技術(シリーズ「オーグメンテッド・リアリティ(AR)時代の世界」第2回)
* 日時:2008年5月20 日(火) 午後5 時〜8時30分
* 会場:国際大学グローバル コミュニケーション センター
(東京都港区六本木6-15-21ハークス六本木ビル2F)
地図:http://www.glocom.ac.jp/j/access/

■概要
『セカンドライフ』のようないわゆる仮想世界から『攻殻機動隊』や『電脳コイル』に見られるようなオーグメンテッド・リアリティへの、シフトがいま注目されている。オーグメンテッド・リアリティとは、画像や注釈といった情報を環境の上に重ねる技術として知られており、もう少し直感的に言えば、現実空間にホログラムを投影するような技術だと思ってもらってもよい。『攻殻機動隊』や『電脳コイル』は、そういった技術が全面化した未来社会を描いたアニメーション作品として、近年高い評価をうけた。 また、こうしたSF作品によって具体的な未来のイメージが提示されたのみならず、実際のオーグメンテッド・リアリティの技術的な進展も驚くほどに興味深い段階を迎えてきている。では、こうしたオーグメンテッド・リアリティが現実化したとき未来の世界はどのように変わっていくのだろうか。技術論、制度論、身体論などからシリーズで分析を加えていく。第1回の社会・制度論に引き続き、第2回となる今回は技術の観点からAR技術の進展を確認してゆく。オーグメンテッド・リアリティの技術がいま、どこまできているのか、その全貌を確認してゆきたい。

■講師プロフィール:
・稲見 昌彦(いなみ・まさひこ) 1972年東京都生まれ。1994年東京工業大学生命理工学部生物工学科卒。1996年同大学大学院生命理工学研究科修士課程修了。1999年東京大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)。東京大学リサーチ・アソシエイト、同大学助手、電気通信大学講師、同大学助教授、、同大学教授、マサチューセッツ工科大学コンピュータ科学・人工知能研究所客員科学者を経て2008年4月より慶應義塾大学 大学院 メディアデザイン研究科教授。科学技術振興機構 ERATO 五十嵐デザインインタフェースプロジェクト グループリーダー。情報処理学会論文賞、IEEEVirtual Reality Best Paper Award等受賞歴多数。
・長谷川 晶一(はせがわ・しょういち) 1997年東京工業大学工学部電気電子工学科卒業。1999年同大学大学院知能システム科学専攻修士終了。同年ソニー株式会社入社。2000年東京工業大学精密工学研究所助手。2007年電気通信大学知能機械科助教授。同年准教授、現在に至る。EuroHaptics 2004 Best Paper Award、EuroGraphics 2004 Best Paper Award、ACE2005 Best Paper Award、日本バーチャルリアリティ学会論文賞、貢献賞など受賞。日本バーチャルリアリティ学会、日本ロボット学会、計測自動制御学会、情報処理学会各会員。バーチャルクリーチャー、知能ロボティクス、バーチャルリアリティ、物理ベースモデリング、力触覚、ヒューマンインタフェース、エンタテインメント工学の研究に従事。

■お申込方法
下記URL<GLOCOMセミナー受付>より事前お申し込みください。受付されますと「予約確認」のメールが返信されますのでご確認下さい。
 → http://www.glocom.ac.jp/xoops/html/

※国際大学GLOCOMのIECP会員、研究協力委員会会員、客員研究員、フェロー、 リサーチ・アソシエート、および研究員より紹介を受けた方の参加は無料で す。それ以外の方はモニター参加が可能です(参加費用として10,000円を当 日頂戴します)。モニター参加の方には後日IECP研究会についてのご感想を 伺う場合があります。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

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