歴史が長くレガシーなシステムからの脱却とDX推進の挑戦--コープさっぽろに聞く - (page 2)

北海道という場所で人材を確保できた理由。幅広い事業に内部から関われる魅力

――DX推進にあたって注力したポイントはどういったところでしょうか。

中内氏: 私たちよりも、むしろ上の層が心を砕いたと思うのですけど、DXはデジタルトランスフォーメーションのことですが、それがイコールしてデジタル化、システム化と捉えてしまう方も少なくないです。でも、デジタルの力を使いつつ業務を見直すことが大事であって、ただデジタル化をするだけではないということです。そこをすごく重きを置いて取り組むようにしていました。楽にならないのだったら、しない方がいいとも言えます。

 幸いだったのは、対馬が長谷川を招聘したこと。長谷川を起点に、道内だけではなく道外からも活躍しているエンジニアがたくさん集められたのは、効果があったと思います。その方々が組織のなかでとどまらずに、あちこちのコミュニティに行って外の情報を吸収して取り入れて、さらに自分たちがやってきたことを外に発信していくという循環を繰り返してきたから、2年経った今、組織としてシステム開発や導入でうまくいっているところはあると思います。

――noteでも「コープさっぽろDX」と題して、積極的に情報発信を行っているように見受けられます。

中内氏: noteでの情報発信は、採用の側面もありますけど、せっかく力を注いで取り組んでいることなので、機密情報に当たらない限りはどんどん発信していって、いい循環を作っていくという考えですね。あと発信すると、外部の方だけではなく、内部の職員も見てくれるので、内外に向けアピールする狙いもありました。

及川氏 : 現場からすると決まったことはわかりますけど、決まる前の動向や過程というのが見えないんですよね。得てして「なんでそうなったの?」と思うことがあっても、noteで経緯を見て考え方を知って納得するということに気づけたかなと思います。

中内氏: 職員の方は真面目で一生懸命頑張る方が多いです。そういう方から見ると、いままで職員としていなかったエンジニアに対して、「あの人たちは何やってるんだろう?接点がないからよくわからない」と思う方もいます。それに対してnoteという媒体は役に立ったところがありますね。今ではもう一緒に仕事しているので、名前を聞けばわかるという状態にはなってます。

――DX推進における人材の採用活動は、どのように進められたのでしょうか。

中内氏: 採用については、エンジニアでも開発する人材というのはゼロの状態でしたので、まずは開発エンジニアを採用するということが、DXの開始と位置付けられていました。採用の手法についてはリファラルもそうですし、いわゆる転職サイトや、ビジネスSNSなども活用していました。

 リモートワークもありますが、北海道のような地方都市ではエンジニアを確保しにくいところがあります。地方都市というところで、絶対数が少ないというのも事実としてありますし、集めるのに苦労してるという一面はあります。どうしても道内ではあまり人がいないというなかで、やはり長谷川は界隈では有名でしたので、記事にしていただいて反響を得るなどして知っていただきつつ、採用を進めた感じです。

 私たちがDX推進に取り組み始めたころは、北海道が移住促進のプログラムを実施していたこともあって、それを活用して来ていただいた方も何人かいらっしゃいます。いいタイミングで重なったので、初期段階でも集められた部分は確かにありました。

 採用にあたっては、コープさっぽろで何をしたいか、そしてコープさっぽろだからこそ組織としてどう貢献したいか、というところを注視していました。あとはDX推進に関わるというところだけではなく、コープさっぽろに対する思いや共感性ですね。昔コープさっぽろで買い物をしていましたとか、両親の世代がよく使ってましたとか、こういう風になったらうれしいという考えを持っている方ですね。

 転職サイトやビジネスSNSでも応募される方の特色などはありましたけど、ウォンテッドリーから応募されたエンジニアを採用すると、ビジネスSNSという性質なのか、その周辺からの紹介や、その方が参加したコミュニティでの縁で応募していただいた方も多かったですし、採用コストや採用後の齟齬の小ささの観点で良かったと感じているところがあります。そうしてここ3年ぐらいで、二十数名程度採用しています。

――応募される方のバックグラウンドとしては、道外在住の方が多いのでしょうか。

中内氏: 地縁がないIターンの方もいることはいますが、やはりUターンの方が多いですね。コープさっぽろには地域課題の解決という側面もありますので、地方で育った方は多い感じです。

 年代的にも、コープさっぽろに対して親しみを持ってくださる方は多いと感じています。30歳代半ばから40代半ばぐらいまでの方だと、幼少期に起きた出来事を背景に、コープさっぽろを好意的に見てくださる方が多いので。一方で、若手の採用については、苦戦しているのが正直なところです。

――コープさっぽろでエンジニアとして働くことの魅力はどのようなところで、どのようにアピールしていますか。

中内氏: コープさっぽろは、店舗や宅配サービスのイメージが強いのですけど、実際には29の事業を行ってます。例えば保険、あとは建築や不動産など、事業の幅がかなりあります。これを民間の一組織で体験するというのは、社外であればSIの仕事として受けて経験できるところもありますが、社内に入ってできるところはあまりないと思います。ここにいながら、いろんな事業領域に関わることができるということは、キャリアの幅も広がるというところで魅力になっていると感じます。

 そもそもエンジニアがゼロの状態からスタートしたので、ハンズオンしたらなんでもできる環境でもあります。これは、対馬や長谷川がその土壌を作ったからというのも大きいのですけど、よくある程度の経験を積まないとPM(プロジェクトマネージャー)ができないというところもあるようですが、やる気と責任を取る覚悟があるなら、1年目からでもできるスタンスですので。そこも魅力的かなと。

 ほかにもAWS Samurai(※1年間のJAWS-UGの活動状況から、JAWS-UGのコミュニティの成長や支部運営、さらにはAWSクラウドの普及に大きく貢献、または影響を与えた方を「AWS Samurai」として表彰する制度)を取っている方が4人在籍していて。日本でも最高峰と呼ばれる方の近くでキャリアが積めることも、魅力として伝えていますし、それで人が人を呼ぶというリファラルがうまくいっているところがあります。あとはエンジニアには専用の就業規則にしていて、エンジニアとして働きやすい環境を整えていると思いますし、そこは上層部が変えてくれたところも大きいです。

――中内さんは、SIの仕事をして転職されたとお話されていましたが、ご自身としてコープさっぽろにどのような魅力を感じたのでしょうか。

中内氏: 前職でも、実際に小売り業をしている会社のシステム導入を経験はしていました。ただ、1枚壁があって奥に入ってる状態、と表現するのがいいんでしょうか。エンドユーザーであったり、現場で実際に働いている従業員の方との接点が薄かったんです。なので企画や設計を行っても、本当に役に立っているのかが実感しにくかったところがあります。長い期間と相応にお金をかけたプロジェクトを担当することが多かったので、みなさんのところに届くまで時間もかかるので、もやもやすることも少なくなかったです。コープさっぽろだと、その垣根がなくなって距離感も近いので、何かやったらすぐに現場へと届くと。きちんとリリースできているという実感が持てる、というところはあります。

――コープさっぽろとして、DX推進にあたってこういう人材やスキルを持つ方がいるとありがたいという方はいらっしゃるのでしょうか。

中内氏: そもそものお話ではありますが、DX推進に必要な人材として“エンジニア”という存在がひとくくりとして見られるところもありますが、推進にあたっては開発ができる、手の動くエンジニアが必要であること。あと、どういうものを作るかというディレクションができるプロジェクトマネジメント、プロダクトマネジメントの3つが不可欠かと。そもそもディレクションをする人がいないと、作れる人が集まっても、何もできない状態になります。

 当然AWSのエンジニアだったり、プロダクトマネジメントやプロジェクトマネジメント、ディレクションができる方を求めている本音がありますけども、地域関係なく慢性的に不足している状態ですので、結構難しいところです。

 その上で小売りのシステム経験、小売りの勤務経験がないと、想像力を働かせるという面で難しいのかなとも思います。逆に、エンジニアを探すというよりは、この業種の経験者を育てていく、その観点から探してくる方向に切り替えて考えないといけないのかなと。今はある程度、他の会社で頑張ってきた方々に来てもらっているという状態ですので、育成に関してはこれからの課題でもあります。

 あとは新しいことを同時並行的に取り組んでいくので、誰かの指示を待ってやるという方よりは、自分でスケジュールを立てたり段取りを立てたり、組み立てて進められる方が、うまくやっていけると思います。

小売りにおける労働人口の減少や“物流の2024年問題”という課題

――小売り業や物流として、特有の課題というものはありますか。

中内氏: まず労働人口が減少傾向にあるという状況が根底にあります。そして減少傾向にあるからこそ、何でもできなければいけないというのもあります。例えば、生鮮の売り場だけ作ればいいというような、ひとつのことだけやれば大丈夫ということではなくなっています。それをデジタルの力を活用しつつ、やることとやらないことを選別して業務を少しでも楽にしていかないと、先細りしていくだけになる危険性をはらんでいます。

 物流においてもトラックの問題があります。物流の2024年問題と呼ばれるものがありまして(※2024年4月から、トラックドライバーにおける時間外労働の規制強化が施行予定。労働環境の改善が期待される一方で、人手不足の現状では輸送量そのものが減少してしまう懸念がある)、物流におけるトラックでの輸送量が不足するであろうことと、その運転できるドライバーも不足していくだろうという話もあります。そこをどうやって解決するのか。物流の載せ方を変えたり、ルートを変えるのか。もっとドラスティックに運び方を変えることまでやっていかなければいけないという状況です。これはコープさっぽろだけではなく、みなさんも同じようなことを課題に感じられていると思います。

及川氏 : 物流や小売り業界のシステム導入を経験をされた方ですと、納品発注から納品までのリードタイムがあるとか、納品した時点でお金が発生するといったお金の流れについても、自然と頭のなかに入ってますので、システムの導入や構築でも勘所というのがわかると思うんですね。全く経験のない方だと、落とし穴に気づかないでシステムを構築してしまうと、トラブルが発生する危険性も否定できないので、そこを回避する意味でも業界の経験がある方だとありがたいですね。

中内氏: 物流の課題を解決するのに、トラックの配送ルートや人のやりくりを考えるにあたって、業界の話ではあるけど、例えばゲーム的な話というような捉え方をして、新しい発想で考える方というのも時には必要だと思うところがあります。なので、必ずしも同業他社ではないと無理という話でもないです。課題における軸となるものに気づける方、というところが大事かなと。

――デジタル推進本部として、この先の展望みたいなものはありますか。

及川氏 : 今、外部から人が来ていただいてコープさっぽろ全体のDXを進めていこうということで取り組んでいますが、教育や育成については、まだまだできていません。やはり内部の方々、プロパーで最初から入って来たような方々でDXを推進できるように、自分たちの組織をよくしていきたいですね。この先、自分たちで力をつけていかないと続けられないと思っているので。そこを強化できるといいなと思います。

中内氏: DX推進については、ホストのオープン化やAWSの移行、システム基盤に向けた動きをここ1年で取り組んでいて、DXができる環境にもっていくという動きについては終わりそう、というところまできています。それができてくると、攻めのシステム開発や導入というんでしょうか。これまでは、働き方の改善に向けた取り組みといった足元を改善する取り組みだったり、自分のために勉強するという時間も確保できないような環境下に置かれていたところもありましたので。

 ある意味、デジタル推進本部で仕事をするのが一番カッコいいと言われるような部署になりたいというのが理想像としてあります。休み方や勉強の仕方、仕事の仕方や進め方、マネジメントやディレクションを含めて、こうしたことが最先端でできる部署でありたいと考えています。

及川氏 : 人とか環境については中内が話していた通りで、DXについてはAWSベースに移行したりオープン化されたというところまではきているので、その先にある店舗事業や宅配事業などで、レガシーなシステムから新しいシステムになったことによって、より効率的に改善していくことのスピードアップが図ることができたらと。

中内氏: 現場では、これまでやりたい事業、やりたい売り方の提案は出てくるのですけど、現行のシステムのままでは難しい部分が多々ありました。これから小売りやECなどのチャネルができてきて、ようやくスタートラインに立てる環境が整ってきたと思いますし、さらに加速していくための1年、2年になると感じています。

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