続いて令和5(2023)年度から令和9(2027)年度まで5年間にわたって実施される「農林水産省中小企業イノベーション創出推進事業(SBIR基金)」についての説明が行われた。
令和4(2022)年度の補正予算で内閣府が措置した2060億円の予算のうち、農林水産・食品分野において467億円の基金を使い、スタートアップの持つ先端技術を活用した大規模実証を支援するというものだ。
参画要件は原則的に設立15年以内の先端技術を有するスタートアップに加えて、スタートアップと連携協定を結んだコンソーシアムが応募できる。
「対象分野は農林水産・食品分野において、AI・ロボットやフードテックによる食品の開発などを行っているところだ。特に食品分野、アグリテック分野についてのスマート技術の開発実証などに期待している。公募は7月下旬から8月上旬ぐらいに考えているので、ぜひ検討していただきたい」(担当者)
続いて、2つのWTと1つのCCからの活動報告が行われた。スマート育種産業化WTは「ゲノム編集」を中心に取り扱っており、ゲノム編集の産業化にかかる届け出制度などの改善にフォーカスを当ててアンケートやヒアリング、農林水産省との協議を行い、2021年に提言を提出した。
ゲノム編集食品の届出制度が2019年10月に開始されたが、届け出されたのは3社のみで、届け出件数は6件にとどまると担当者は語る。
「サナテックシードやリージョナルフィッシュなどが“ファーストペンギン”として上市したものの、その後が続いていないのが今の課題ではないかと思う。しかし取り組んでいる方が少ないわけではなく、すでに利用されている方、今後取り扱う予定という方は一定数いると認識している」(担当者)
今後の活動方針を決める上で、研究開発や社会受容、ライセンス、法規制などそれぞれの観点でどういった課題があるのかをアンケートで洗い出そうとしているとのこと。
「まだ消費者や社会受容における課題が大きいのではないかと考えている。そこでSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)におけるゲノム編集の情報発信やアウトリーチ活動において中心的な役割を担われている農研機構の高原学教授と協議を始めており、今後の活動について連携を模索している」(担当者)
9月にはゲノム編集食品関連のシンポジウムを東京・品川で開催する予定。「まだ詳細は決まっていないが、当日はパネルディスカッションや試食なども設ける予定だ」(担当者)
続いてヘルスフードテックWTの代表を務めるウェルナスの小山正浩氏が活動報告を行った。ヘルスフードテックWTが目指すデジタルヘルスケア市場では大きく分けて「医療」と「健康管理」の2つの市場があるが、それぞれに課題があると小山氏は語る。
「医療ではデジタル治療を行う治療用アプリが出てきている。科学的エビデンスに基づいたもので効果も高いが、利用は病者に限られており、気軽に利用できない。健常者が気軽に使えるのが健康管理だが、科学的エビデンスには基づいておらず、規格基準に基づいた食情報の提案というところで効果が限定的になっているのが現状の課題だ」(小山氏)
今年度の活動について小山氏は次のように語った。
「まずは健康実現のための未来食実現に向けたコンセプトを共有し、パーソナルヘルスレコードの利用に関する理解を深めていく。そしてそれを一般消費者にも伝えていき、オープンイノベーションで広く市場を作っていきたい」(小山氏)
日本細胞農業協会の岡田健成氏は、細胞農業CC(コミュニティサークル)の取り組みについて紹介した。細胞農業は細胞を用いた農作物生産のことで、「培養肉」だけでなくバクテリアや酵母などを培養して特定の物質を生産させる「精密発酵」なども含まれる。その中でも特に精密発酵に関する日本語での情報発信が少ないことが課題だと岡田氏は語る。
「米国にもメンバーがいるため、米国のメンバーに精密発酵食品を食べてもらい、試食レポートを書いてもらうといったことを行っていきたい」(岡田氏)
細胞農業CCでは培養肉についての消費者意識調査を継続的に行ってきたが、今年度からは精密発酵についての調査も実施する予定。8月29日には、国内最大級の細胞農業に関する学術集会である 「第5回細胞農業会議」が東京・お茶の水で開催される。
「今までは培養肉や細胞性食品について話していたが、今年から精密発酵や植物を使った細胞農業についても説明する予定だ。研究者に加え、海外のスタートアップも呼ぶ予定になっている」(岡田氏)と説明した。
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